弘法大師空海は『弁顕密二教論(べんけんみつにきょうろん)』の冒頭で、顕教(けんぎょう)と密教を分けて説きました。顕教は、六度(六波羅蜜)の行を宗とし、三大阿僧祇劫(さんだいあそうぎこう)という長い時をかけて仏と成ると説く教えです。密教は、法身(ほっしん)の仏がみずから身・口・意の三密の法門を説く教えです。三密とは、仏の身(身振り・印契)・口(真言・言葉)・意(心・瞑想)の働きです。修行者は三密加持(さんみつかじ)によって、自らの身・口・意を仏の身・口・意に重ねます。そうして、この身のままでさとりを開く即身成仏(そくしんじょうぶつ)の道を歩みます。
弘法大師は『般若心経秘鍵(はんにゃしんぎょうひけん)』で、真言を心に念じ、口にとなえることを、心の根本の迷いである無明(むみょう)を払い、本来そなわる清らかな心を開く実践として示しました。
寺院での修行だけでなく、お墓やご仏壇の前でも、六波羅蜜を実践できます。真言宗に伝わる口伝では、仏前に供える六種の供物を六波羅蜜に配します。閼伽(あか。仏前に供える水)は布施、塗香(ずこう)は持戒、花は忍辱、焼香は精進、飲食(おんじき。仏飯やお膳)は禅定、灯明は般若です。日々のお参りの所作に六つの教えを重ね、仏前で整えた心で、暮らしの中の人と関わっていきます。