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平等寺を知る

持仏堂本尊 十一面観音

十一の面は、苦しみを見落とさないための顔

平等寺の持仏堂本尊が、十一面観音さまです。本堂本尊の薬師如来にちなむ「醫王院」と、この観音さまにまつわる「日光院」。二つの院号には、薬師如来と十一面観音への祈りが今も息づいています。ここでは、持仏堂のお像と寺伝、日々の拝み方をご案内します。

 

  1. 持仏堂の本尊 十一面観音
  2. 日光院に残る、開創の言い伝え
  3. 十一面観音とは、どんな観音さまか
  4. 毎月18日の十一面観音護摩
  5. おとなえする真言
  6. よくあるご質問
  7. 参考文献・出典

持仏堂の本尊 十一面観音

平等寺の持仏堂には、十一面観世音菩薩をお祀りしています。本堂の本尊が薬師如来であるのに対し、持仏堂の本尊として、日々の祈りを受け止めてくださるのが、この十一面観音さまです。

一木造の立像で、頭上に十一面をあらわし、蓮華と水瓶を持つお姿です。弘法大師の巡錫の頃にはすでにお祀りされていたと、寺伝に伝わります。古い口決は、この水瓶に慈悲の水、甘露かんろが満ちると伝え、流行り病のときにはこの尊の法を修するのだとも説いてきました。

平等寺には、薬師如来への信仰と、観音さまへの信仰の、両方が重なっています。本尊 薬師如来の別名「醫王善逝いおうぜんぜい」にちなむ「醫王院」と、十一面観音の光明にまつわる「日光院」。二つの院号は、平等寺の祈りに薬師と観音の両方が息づいていることを、今に伝えています。

平等寺 持仏堂の十一面観音立像
持仏堂の十一面観音(平等寺蔵)

お像の諸元

造像伝・平安初期以前
構造一木造
像容立像。頭上に十一面、蓮華と水瓶
補足

持仏堂へお参りの際は、納経所へお声がけください。行事のない時間には、堂内でお参りいただけます。十一面観音さまの前では、後ほどご紹介する真言をとなえ、静かに手を合わせます。

日光院に残る、開創の言い伝え

加持水を汲もうとした朝、水面に映った日光を、十一面観音のお姿と受け止めた。これが院号「日光院」のいわれです。

加持水を汲もうとした朝、水面に日光が映って、院内を明るく照らしたと伝えられます。この大きな光は、十一面観音のお姿と受け止められ、方丈の本尊として十一面観音が祀られました。

白い霊水と朝の光にまつわる開創の情景が、院号「日光院」に残されています。寺名の「平等寺」もまた、薬師如来が人々を分け隔てなく救うという誓いに由来すると、寺の由来記は伝えます。

補足

平等寺の歩みは「平等寺の歴史」、開創のいわれは「平等寺由来記」で、くわしくお伝えしています。

十一面観音とは、どんな観音さまか

観音さまが、救う相手やはたらきに応じて姿を変えてあらわれる。それが変化観音です。十一面観音は、頭上の十一の面であらゆる方向を見渡し、どの方角の、どんな人の苦しみにも応じて救うとされます。

十一の面は、それぞれ違う表情をしています。喜ぶ者にはともに喜び、悪をなす者には怒りをもって正し、どの方向の苦しみにも応じて姿を変えながら救う。そのはたらきを、十一の面という形で表しています。

もともと「十一面」とは、観音さまがとなえる心真言しんしんごんの名でした。その心真言にこめられた、あらゆる方向へ向かって衆生を救おうとする大悲のはたらきが、やがて十一の面をもつお姿として表されるようになったのです。

正式には十一面観世音菩薩。梵語(古代インドの言葉)では「十一の面をもつ観自在」を意味します。日本では、変化観音のなかでもっとも早く信仰されはじめた仏として、奈良時代から数多くのお像がつくられてきました。

十一面観音の成り立ち・経典・十一の面を詳しく読む
補足:十一の面のはたらきを読む

十一の面が、救うかたち

十一の面の意味は、経典に説かれるお姿と、注釈書に残るはたらきの解説から、うかがい知れます。五つの組を順に見ていきます。

面の数え方はひとつではありません。呼び名は十一面。ただ、この十一の面をいただいている、観音さま本来のお顔まで数えれば十二にもなります。注釈書は、この十一と十二の関係を三つの組で説きます。頂上の仏面はさとりの結果(果)、もとの顔は修行の原因(因)。上の十一面は人々を導くための方便の顔、もとの一面は本来の真実の顔。正面の慈悲の顔が文、左の怒りの顔が武にあたります。どの面も、苦しむ人を救いへ導く観音さまのはたらきのあらわれです。

頂上の大きな仏面と、各面の宝冠に宿る小さな化仏けぶつは別のものです。古い訳は、宝冠の化仏を阿弥陀仏と明示します。なお、千手観音もまた、頭上に十一の面をいただきます。

正面の三面

慈悲相じひそう

善き行いの人を見て慈しみの心をおこし、楽しみを与えます。

左の三面

瞋怒相しんぬそう

悪い行いの人を見て悲しみの心をおこし、怒りをもって苦しみから救おうとします。

右の三面

白牙上出相びゃくげじょうしゅつそう

清らかに励む人を見てたたえ、いっそう仏の道へと進ませます。

後ろの一面

暴悪大笑相ぼうあくだいしょうそう

善も悪も入りまじった人を見て、大笑いして悪を改めさせ、道へ向かわせます。

頂上の一面

仏面ぶつめん

大乗の教えを修める人に、究極の仏の道を説きます。

補足

お像の腕の数には、二臂にひ(腕が二本)と四臂の二通りが経典に説かれます。日本で広まったのは二臂の姿で、左手に蓮華をさした水瓶を持ち、右手に数珠をかけて施無畏せむい(人々の恐れを取り除く印)をあらわします。

補足:経典に説かれる利益を読む

ご利益と、祈り

経典には、この観音さまをとなえて、この身のままで得られる利益が説かれます。なかでも有名なのが「十種勝利」と「四種功徳」です。

さらに四種の功徳として、命を終えるとき諸仏を見たてまつること、悪い世界(悪趣)に堕ちないこと、険しい災いによって死なないこと、極楽世界に生まれることが説かれます。無病や災いを避けることなど、現世を健やかに過ごす願いと、臨終ののちの極楽往生が、ともに説かれているのが十一面観音の経典の特徴です。

十一面観音が病気平癒・無病息災・厄除けの観音さまとして親しまれてきたのは、この経典の説きに根ざしています。平等寺の持仏堂の本尊として、日々の祈りをお受けしています。

  • 身に常に病がない
  • つねに十方の諸仏に護られる
  • 財宝や衣食に不自由しない
  • 敵を伏して、恐れることがない
  • 尊い人々に敬われ、先に声をかけられる
  • 毒や物の怪に害されない
  • あらゆる刀や杖に傷つけられない
  • 水に溺れない
  • 火に焼かれない
  • ついに横死(不慮の死)をしない
補足

病気のある方は、必要な受診、検査、服薬、治療を続けながらお祈りください。祈りは医療の代わりや、治癒の保証になるものではありません。

補足:日本での信仰を読む

日本で育った、十一面観音の信仰

玄奘訳の流布が、中国と日本での盛んな造像をうながしました。十一面観音は、変化観音のなかでもっとも広まった形式となりました。

奈良時代には、病気治癒など現世の願いの本尊として、多くのお像がつくられました。法隆寺金堂の壁画にも、十一面観音とみられる尊像が描かれています。経典は小さなお像を造るよう定めますが、日本では等身を超える大像も数多く造られ、右手に錫杖、左手に蓮華をさした水瓶を持ち岩上に立つ「長谷寺式」のような、日本独自の像容も生まれました。

東大寺二月堂の「お水取り」は、正式には「十一面悔過じゅういちめんけか」といい、本尊の十一面観音に罪を懺悔し、国の安らかさと人々の幸いを祈る法会です。天平勝宝四年(752)以来、絶やさず続けられています。

十一面観音は、六道(迷いの世界)の衆生を救う「六観音」の一尊にも数えられ、おもに修羅道を救う観音として配当されます。

  • 国宝の十一面観音として、向源寺(渡岸寺観音堂・滋賀)、聖林寺(奈良)、法華寺(奈良)など、全国各地に名高いお像が残ります。

毎月18日の十一面観音護摩

観音さまの縁日は18日とされます。平等寺では、この観音縁日にあわせて、毎月18日の夜に十一面観音さまの御前で「十一面観音護摩」を修しています。

護摩とは、護摩炉に智火ちか(仏の智慧の火)を燈し、護摩木を炎に投じながら真言をとなえて修する、真言宗の祈りの作法です。無病や災い除けなど、経典に説かれる十種勝利への願いを智火に託します。

息災とは、病や災い、障りを静め、穏やかな日々を願うことです。無病息災・病気平癒・厄除けの願いを託していただけます。オンラインからもお申し込みいただけます。

毎月18日の十一面観音護摩の内容と申込方法を見る

おとなえする真言

十一面観音さまに手を合わせるとき、次の真言をおとなえします。まずは、二番目の「おん まか きゃろにきゃ そわか」からで十分です。

第一の真言

おん ろけい じんばら きりく

oṃ lokeśvara hrīḥ

観音さまへの帰依をあらわす真言です。むすびの「きりく」は、蓮華部の種子(しゅじ。仏を一字であらわす梵字)です。

大悲をたたえる真言

おん まか きゃろにきゃ そわか

oṃ mahā-kāruṇika svāhā

「おお、大悲者よ」と、観音さまの大いなる慈悲に帰依する真言です。根本の経典が観音を「大悲者(莫訶迦嚧尼迦)」とたたえる言葉に由来し、十一面観音にもっとも広くおとなえされています。

根本の十一面神咒(心真言)

タニャタ オン タラタラ チリチリ トロトロ イテイハテイ シャレイシャレイ ハラシャレイ クソメイ クソメイ ハレイ イリビリ シリシリ チ ジャラ マハノウヤ ハリ マ シュダサトバ マカキャロニキャ ソワカ

tadyathā oṃ dhara dhara dhiri dhiri dhuru dhuru iṭṭe vaṭṭe cale cale pracale pracale kusume kusuma-vare ili mili citi jvalam-āpanaya śuddha-sattva mahā-kāruṇika svāhā

経典に説かれる、「十一面」という名の根本の心真言(長い真言)です。十種勝利などの利益は、この心真言を百八遍となえることに説かれています。

補足

「おん まか きゃろにきゃ そわか」は、観音さまの大悲をたたえる真言で、十一面観音にも広くおとなえします。十一面観音に固有の真言は、三番目の長い心真言(十一面神咒)です。まずは短い真言から、観音さまの大悲へ心を向けてください。

よくあるご質問

願いごとから護摩を選ぶ

平等寺では、五尊の月例護摩をオンラインで受け付けています。願いごとに近い仏さまを選び、申込画面で内容を確かめられます。

五つの護摩を願いごとから選ぶ
参考文献

参考文献・出典

本ページは、平等寺の持仏堂本尊と寺伝を中心に、本文に直接関わる原典と研究を選んで示しています。漢訳経論は大正新脩大藏經(CBETA)で確認しました。一般的な教義・伝来・図像に関する詳しい書誌は、解説記事にまとめています。

解説記事「十一面観音とは」の詳しい参考文献を見る

平等寺の寺蔵資料・寺伝

平等寺蔵 持仏堂本尊 十一面観音立像。一木造で、頭上に十一面、蓮華と水瓶を表す。
平等寺所伝の開創由来。加持水に映る朝の光を十一面観音のお姿と受け止めた、院号「日光院」のいわれを伝える。

経典・注釈

耶舍崛多やしゃくった訳『仏説十一面観世音神咒経』(大正蔵 No.1070)。現存最古の漢訳。
玄奘げんじょう訳『十一面神咒心経』(大正蔵 No.1071)。顕慶元年(656年)訳出。日本でもっとも広く読まれた。
慧沼えしょう撰『十一面神呪心経義疏』(大正蔵 No.1802)。玄奘訳に現存する唯一の漢文注釈。
不空ふくう訳『十一面観自在菩薩心密言念誦儀軌経』(大正蔵 No.1069)。四臂の像容と四種の護摩を説く。

真言宗・東密の事相書

静然じょうねん撰『行林抄』第二十八「十一面法」(大正蔵 No.2409、第76巻)。十一面の数を「十一地」と釈する師伝を収める。
頼瑜らいゆ記『薄草子口決』第八「十一面」(大正蔵 No.2535、第79巻)。病患・疫病の難を除く修法と、水瓶に悲水・甘露水が満ちる秘説を伝える。
教舜きょうしゅん記『祕鈔口决』第十五「十一面法」(真言宗全書 第28巻、214〜217頁)。四種の修法のうち常には息災として修することを伝える。
興然こうねん撰『五十卷鈔』第二十七(真言宗全書 第30巻、94頁・116頁)。十一面法の口伝と密号を収める。

研究・日本の信仰

大塚伸夫「『十一面観世音神呪経』の形成と展開について」『高野山大学密教文化研究所紀要』第25号、2012年。 全文PDF
佐和隆研「十一面觀音の表現に就いて」『密教研究』第84号、1943年、57〜79頁。 J-Stageで読む
東大寺 二月堂(奈良)。修二会(お水取り)=十一面悔過の道場。 公式サイト
e国宝(国立文化財機構の所蔵名品データベース)。 公式サイト

あわせて読む

一般解説、護摩の案内、平等寺のご本尊へ、関心に応じて読み進められます。

  • 十一面観音とは

    十一面観音の成り立ち、十一の面の意味、十種勝利などを、原典の引用とともに解説した読みものです。

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  • 毎月18日の十一面観音護摩

    観音縁日の夜に修する息災護摩の解説と、オンラインでのお申し込みのご案内です。

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  • 本尊薬師如来

    弘法大師御作と伝わる平等寺の本尊薬師如来。その由来と祈りをご紹介します。

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  • 平等寺の歴史

    開創から現在まで、平等寺の歩みと、寺号・山号・院号のいわれをたどります。

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  • きゅうり加持とは

    夏の無病息災を祈るきゅうり加持を、原典からたどる解説記事です。

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