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焼八千枚供とは

焼八千枚供しょうはっせんまいくは、不動明王ふどうみょうおうを本尊として護摩ごまを修し、修行の最後の日に八千枚の護摩木ごまきを一枚ずつ炎に投じる、真言密教の修行です。護摩は、炉に火を燈し、木や供物を炎にささげて仏を供養する修法です。その炎は、如来の智慧をあらわす智火ちかです。平等寺では21日間にわたってこの行を勤め、皆さまからお預かりした願いの成就を祈ります。
大きく立ち上がる智火の前で焼八千枚供を修する平等寺の行者

目次

  1. 護摩とは何か
  2. 焼八千枚供の流れ
  3. よりどころとなる『立印軌』
  4. なぜ、八千枚なのか
  5. 不動明王と智火
  6. 日本に伝えられた修法
  7. 平等寺の二十一日間
  8. 願いの成就を祈る
  9. 現地と配信でのお参り
  10. 用語の手引き
  11. よくある質問
  12. 出典と参考資料

護摩とは何か

護摩ごまは、密教の修法(しゅほう・仏に向かって定められた作法で行う修行)の一つです。炉を据えた壇を護摩壇ごまだんといい、行者(ぎょうじゃ・修法を勤める僧侶)はその前に座り、炉に火を燈します。そして護摩木ごまきという木の札や、穀物、油などの供物を炎に投じて、仏を供養します。

護摩の語は、サンスクリット語のホーマ(homa)を音で写したもので、供物を火にささげることを意味します。密教では、この火を如来の智慧の火、すなわち智火ちかと観じます。智火は、私たちの迷いを焼き尽くす仏の智慧のはたらきを、炎の姿であらわしたものです。

護摩には、中心にまつる仏がいます。これを本尊ほんぞんといい、焼八千枚供の本尊は不動明王です。行者は本尊に向かい、真言しんごんをとなえます。真言は仏の真実のことばであり、サンスクリットの句を意味に訳さず、音のまま受け継いでいます。真言を心に念じながら数を重ねてとなえる行を、念誦ねんじゅといいます。

護摩には願いの型が四つあります。災いを除く息災そくさい、幸いを増す増益そうやく、障りを打ち破る調伏ちょうぶく、和合を願う敬愛きょうあいです。護摩を一回修することを、一座いちざと数えます。焼八千枚供は、この護摩を何日も重ね、最後の日に八千枚の護摩木を炎に投じる修行です。その名は、八千枚の護摩木を炎に投じて供養することに由来し、「焼八千枚護摩供」「八千枚護摩供」とも呼ばれます。

護摩木を手に祈念する平等寺の行者
護摩木を手に祈念する行者。平等寺の焼八千枚供の法会記録より。

焼八千枚供の流れ

焼八千枚供は、二つの段階からなります。初日から前日までの前行ぜんぎょうと、最後の日の結願けちがんです。修行を始める初日を開白かいびゃく、願いを結ぶ最後の日を結願といいます。

前行の間、行者は毎日護摩壇に向かって護摩を修し、不動明王の真言をとなえます。平等寺では、開白から結願までの21日間に63座の護摩を修し、真言を108,000遍となえます。この日々が、結願の八千枚を受けとめる土台になります。

結願の日、行者は前日から一昼夜の断食を保ったまま、朝から夕刻まで大護摩を修します。八千枚の護摩木を千枚ずつ八度に分け、一枚ずつ智火へ投じます。断食は行者の修行です。法会に集って共に祈ることを参座さんざといいますが、参座される方は、いつもどおり食事をとってお参りください。

この21日間、行者は皆さまからお預かりした祈願(きがん・願いごとを申し込んで護摩で祈ってもらうこと)を、毎座の護摩で読み上げます。護摩を修し終えると、行者はその功徳を回向えこうします。回向は、修行で得た功徳を自分のものにとどめず、願主の皆さま、そしてすべての生きものへ振り向けることです。

開催日程・祈願の申込みを見る

よりどころとなる『立印軌』

修法には、その作法を定めた文献があります。経典が仏の教えを説くのに対して、修法の手順、供物、真言を細かく定めた文献を儀軌ぎきといいます。焼八千枚供のよりどころは、『金剛手光明灌頂経最勝立印聖無動尊大威怒王念誦儀軌法品』という長い名の儀軌です。略して『立印軌りゅういんき』と呼びます。

訳したのは不空三蔵ふくうさんぞうです。不空は八世紀の唐で活躍した僧で、多くの密教経典を漢訳しました。真言宗が祖師と仰ぐ八人(付法の八祖)の一人であり、弘法大師空海の師である恵果けいかの師にあたります。

『立印軌』は、不動明王の真言と印、修法の作法を説き、そのなかで八千枚の護摩を定めています。次の四行がその箇所です。

『立印軌』の八千枚供

日本語訳
菜食して念誦し、その数を十万遍に満たす。一昼夜、食を断ち、そこで大いなる供養を設ける。護摩を修するには、苦練木を用い、その両端に酥をつけて炎に供え、八千枚を限りとする。
原文
菜食作念誦,數滿十萬遍,
斷食一晝夜,方設大供養。
作護摩事業,應以苦練木,
兩頭搵酥燒,八千枚為限。
解説
「菜食」は肉や魚を断つこと、「十万遍」は真言をとなえる回数、「断食一昼夜」は丸一日食を断つこと、「大供養」は仏への盛大な供養です。苦練木くれんぼくは儀軌が定める木の名で、日本の注釈書はこれをセンダンの木と説明します。酥そは、乳を煮つめて作るバターに近い乳製品です。護摩木は、古い修法書では乳木にゅうぼくとも呼ばれます。この四行が、菜食と念誦、断食、そして八千枚の護摩という順序を定めています。
出典
『立印軌』。『大正新脩大蔵経』第21巻、No.1199、5頁上段14–17行(CBETA)

苦練木はどのような木か

要旨
『薄草子口決』は、苦練木を「あふち」の木と説明しています。
解説
儀軌は木の名を「苦練木」と定め、それがどの木かを日本の注釈書が「あふち」と比定しました。「あふち」はセンダンの古い呼び名です。頼瑜らいゆの『薄草子口決うすぞうしくけつ』は、鎌倉時代の真言僧が修法の口伝を記した書です。
出典
頼瑜『薄草子口決』第十三。『大正新脩大蔵経』第79巻、No.2535、256頁上段12–14行(SAT)

同じ不空訳の馬頭明王ばとうみょうおうの儀軌にも、菜食、十万遍、断食、苦練木、八千枚という同じ形の文があります。八千枚の護摩は、忿怒ふんぬの姿をとる明王の修法として、儀軌に記されてきました。一方、同じ不動明王の儀軌でも、一千八枚と説くものがあります。日本の注釈書はこの異同を論じてきましたが、八千枚は『立印軌』の定めです。

ただし『立印軌』は、なぜ八千枚なのかを説明していません。その意味は、日本の僧たちが考え、伝えてきました。

なぜ、八千枚なのか

ひとことで言えば、八千枚の護摩木は、行者が自分の迷いを一枚ずつ断っていく数であり、同時に、仏が人々を導く慈悲の数でもあります。

八千枚という数の意味は、日本の真言僧が残した注釈書(ちゅうしゃくしょ・経典や儀軌の意味を説き明かした書)と口伝(くでん・師から弟子へ口づてに伝えた教え)に、大きく二つ伝わっています。一つは、私たちの心の迷いを断って仏の智慧をあらわすという解釈。もう一つは、八千枚という数が、釈尊(しゃくそん・仏教を開いたお釈迦さま)がこの世界に八千度現れることを表すという解釈です。

八識の煩悩を断ち、五智を証する

仏教には、心のはたらきを八つに分けて見る教えがあります。唯識ゆいしきと呼ばれる教えで、この八つを八識はっしきといいます。

目で見る、耳で聞く、鼻で嗅ぐ、舌で味わう、体で触れる。この五つの感覚のはたらきが前五識ぜんごしきです。第六の意識いしきは、考え、判断する心。第七の末那識まなしきは、心の奥で「私」への執着を生み続けるはたらき。第八の阿頼耶識あらやしきは、もっとも深いところで行いの影響を種子(しゅうじ・種)として蓄え、後の心を生み出すもとになります。

煩悩ぼんのうは、この八識に伴って起こり、心を苦しめ迷わせるはたらきです。唯識の教えは、修行によって八識が迷いを離れ、そのまま仏の智慧に転じると説きます。これを転識得智てんじきとくちといい、唯識はその智慧を四智しちとして数えます。真言密教は、これに根本の智慧を加えて五智ごちとします。すべてを包む根本の法界体性智ほっかいたいしょうち。すべてを鏡のように映す大円鏡智だいえんきょうち。すべてを平等に見る平等性智びょうどうしょうち。それぞれの違いを正しく見分ける妙観察智みょうかんざっち。なすべきことを成し遂げる成所作智じょうしょさちです。

『秘鈔口決』に伝わる八識の解釈

要旨
八千枚には、八識の煩悩を断ち、五智を証するという意味がある。百や千は数の多さを表す。
解説
『秘鈔口決ひしょうくけつ』は、教舜きょうしゅんという僧が師から受けた口伝を記した書です。ここでは覚洞院かくどういんと呼ばれる先師の説として、八千枚の「八」を八識に、「千」を数の多さに当てて説明します。八千枚の護摩木を一枚ずつ投じる行には、心の迷いを断ち、仏の智慧をあらわす意味があると説いています。
出典
教舜『秘鈔口決』第十。『真言宗全書』第28巻、334頁(国立国会図書館の書誌。本文は登録利用者向け)

釈尊が八千度この世界に来るという伝え

もう一つは、八千枚を、釈尊がこの世界に八千度現れることを表す数とする解釈です。『梵網経ぼんもうきょう』には、釈尊の次の言葉があります。

『梵網経』の「八千返」

日本語訳
私は今、この世界に八千たび来た。この娑婆世界で、金剛花光王座から摩醯首羅天王宮に至るまで、そこにいるすべての人々のために、心地法門の教えをあらまし説き終えた。
原文
吾今來此世界八千返,為此娑婆世界坐金剛花光王座,乃至摩醯首羅天王宮,為是中一切大眾略開心地法門品竟。
解説
娑婆世界しゃばせかいは、私たちが生きるこの世界です。心地法門しんじほうもんは、この経で盧舎那仏るしゃなぶつが諸仏に伝える教えを指します。釈尊はその教えを人々に説くために、この世界に幾度も現れると語っています。八千枚の護摩木との関係は、次のように日本の修法書で説明されています。
出典
『梵網経盧舎那仏説菩薩心地戒品第十』巻下。『大正新脩大蔵経』第24巻、No.1484、1003頁下段16–19行(CBETA)

『厚造紙』に伝わる釈尊の八千度の往来

要旨
八千枚という数は、釈迦如来が娑婆世界に八千度往来することを表すのであろうか。
解説
元海げんかいの『厚造紙あつぞうし』は、平安時代後期の醍醐寺の僧が修法の作法と口伝を集めた書です。この説を「ある抄物(しょうもつ・注釈書)にいう」と紹介し、末尾を「であろうか」と推量で結んでいます。八千という数に、仏が人々を導く慈悲のはたらきを読み取ろうとした、一つの受けとめです。
出典
元海『厚造紙』。『大正新脩大蔵経』第78巻、No.2483、278頁中段3–4行(SAT)

二つの解釈をどう受けとめるか

教舜の『秘鈔口決』は、同じ箇所に二つの解釈を並べて記しています。また『祕密儀軌隨聞記ひみつぎきずいもんき』という注釈書は、釈尊の八千度を成仏の後に人々を導く数、いま行者が修する八千枚を自ら仏の智慧を証するための行として、二つを区別して説きます(『真言宗全書』第1巻153頁)。八千枚の護摩木には、仏が人々を導く慈悲と、行者が自らの迷いを断つ修行との、二つの意味が説かれてきました。

典拠をさらに読む(関心のある方へ)

八千枚を八識の煩悩を断つ数とする解釈は、真言宗のほかに天台密教の書にも見え、その背景には弘法大師空海の教えがあります。

八識それぞれの惑いを「千」で表す

要旨
八千枚は、八識の惑障を離れ、諸仏の智慧を証する意味と解釈される。八識それぞれの惑いを千として、合わせて八千とする。ここで千は無数を表す。
解説
『溪嵐拾葉集けいらんしゅうようしゅう』は、比叡山の光宗こうしゅうが天台密教の教えを集めた書です。天台の側でも、八千枚を八識に結びつけて説いていました。「千」は無数を表す言葉で、八識それぞれに数えきれない迷いがあることを示します。
出典
光宗『溪嵐拾葉集』「八千数秘決事」。『大正新脩大蔵経』第76巻、No.2410、718頁下段14–21行(SAT)

空海が説く識と智

日本語訳
修行の因の位では識といい、悟りの果の位では智という。智とは悟りだからである。
原文
因位名識
果位謂智。智即覺故。
解説
空海は『即身成仏義そくしんじょうぶつぎ』で、識と智を修行の段階の違いとして説きます。迷いの側から見れば識、悟りの側から見れば智。同じ心が、迷いを離れることで智慧になるという教えです。八千枚を八識の煩悩を断つ数とする解釈は、この教えを背景にしています。
出典
空海『即身成仏義』。『大正新脩大蔵経』第77巻、No.2428、382頁上段6–7行。前後の説明は11行まで(SAT)

不動明王と智火

不動明王は、大日如来(だいにちにょらい・密教の中心の仏)の教えを実行するために、怒りの姿であらわれた尊です。密教ではこれを教令輪身きょうりょうりんじんと呼びます。右手の剣で迷いを断ち、左手の羂索(けんじゃく・なわ)で迷う者を引き寄せ、背には燃えさかる炎を負います。動かない菩提心(ぼだいしん・悟りを求める心)をあらわす仏として、厄除けや災難除けの本尊として親しまれてきました。

護摩壇に燈す火は、この不動明王の智火です。日本の修法書は、不動明王を心に思い描く観法(かんぼう・仏の姿を心に観ずる行)のなかで、この火を次のように説きます。

『諸尊要抄』に説かれる智火

日本語訳
第三に、常に火生三昧に住する。覽字の智火が一切の障りを焼き尽くし、大いなる智慧の火となる。
原文
三。常住火生三昧 覽字智火。燒一切障成大智火
解説
不動明王の姿と徳を十九の項目にまとめて観ずる「不動十九観ふどうじゅうくかん」の第三項です。三昧さんまいは、心を一つに定めた深い集中の境地です。火生三昧かしょうざんまいは、身から智火を放つ不動明王の三昧をいいます。「覽らん」は、梵字ぼんじ(サンスクリット語を書く文字)のラン(raṃ)を漢字で写したものです。仏や仏のはたらきを梵字一字であらわす文字を種字しゅじといい、ランは火をあらわす種字です。不動明王そのものの種字はカーン(hāṃ)で、これとは別です。その智火があらゆる障りを焼き尽くし、大いなる智慧の火となる、と説いています。
出典
実運『諸尊要抄』第九。『大正新脩大蔵経』第78巻、No.2484、311頁中段12行(SAT)

行者が不動明王と一体になる

要旨
定印を結び、本尊の観想に入る。火生三昧に入って、自らの身が不動尊となる。本尊と我とは一体であって、二つではない。
解説
同じ書は、行者が観法のなかで不動明王と一体になることを説きます。密教ではこれを入我我入にゅうががにゅうといい、仏が行者に入り、行者が仏に入る境地を表します。行者は自らを不動明王として護摩を修し、智火の前で迷いを断ちます。
出典
実運『諸尊要抄』第九。『大正新脩大蔵経』第78巻、No.2484、311頁中段6–8行(SAT)

護摩には、実際に火を燈して供物をささげる外護摩げごまと、心の内で智慧の火をもって煩悩を焼く内護摩ないごまがあります。行者は本尊に供物をささげ、真言をとなえ、仏の智慧を自らの身心にあらわすことを目指します。八識の煩悩を断って智を証するという八千枚の解釈も、この観法を通して実践されるものです。

不動明王のお姿と本誓について読む

日本に伝えられた修法

『立印軌』の定めは、日本の真言宗のなかで、実際に修する手順として整えられていきました。その次第(しだい・修法の手順書)や口伝が、平安時代から江戸時代までの修法書に残っています。

八千枚の乳木を供える次第

要旨
護摩木を千枚ずつ、八度に分けて供える。千枚を供え終えるごとに、飯などの供養を重ねる。
解説
実運じつうんの『諸尊要抄しょそんようしょう』は、平安時代後期に諸尊の修法を集めた書です。乳木にゅうぼくは護摩木の別名です。千枚を投じ終えるごとに供養を挟み、八度繰り返す作法が、ここに記されています。
出典
実運『諸尊要抄』第九。『大正新脩大蔵経』第78巻、No.2484、311頁上段18行以降(SAT)

三宝院流に伝わる二十一日間の前行

要旨
八千枚の前行として、護摩を三七日、すなわち二十一日修する。初めの七日は随食、中の七日は斎食、終わりの七日は十穀断ち、すなわち五穀と塩を断つ。終わりの七日の間に十万遍を満たす。当日は一昼夜の断食をし、これが正行の時である。本尊段で百八遍を常のとおり修し、次に八千枚を投じる。千枚ごとに加持物を千度供え、これを八度繰り返す。八千枚を投じるのは開白か結願かの二説があるが、いまは結願の日中の座に修する。『立印儀軌』がこの八千枚の本拠である。
解説
三宝院流さんぼういんりゅうは、醍醐寺に伝わる真言の流派です。随食ずいじきは普段どおりの食事、斎食さいじきは午前のうちに済ませる食事をいいます。この口伝は、二十一日間の前行を三つの七日に分け、食を段階的に慎みながら十万遍を満たし、結願の日に八千枚を修すると定めます。平等寺の二十一日間も、この三七日の前行にあたります。
出典
動潮ほか『三寶院流洞泉相承口訣』。『真言宗全書』第33巻、261頁

東寺(とうじ・京都の教王護国寺)では、不動明王の八千枚と虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう・虚空蔵菩薩の真言を百万遍となえる行)とが特に伝え習われてきました。『秘鈔口決』の教舜は、自身が十度、仁和寺の定遍じょうへんも十度この行を修したと記しています。

同じ書は、八千枚供を息災を表として調伏を兼ねる行と伝えています。結願までの修行の日数や細かな作法は、流派や寺院によって異なります。

平等寺の二十一日間

平等寺では、不動明王を本尊として、開白から結願までの21日間に計63座の護摩を修し、不動明王の真言を108,000遍となえます。『立印軌』が説く十万遍を、平等寺では108,000遍として実修します。お預かりした祈願は、63座すべての護摩で読み上げます。

八千枚を供える結願

結願の日には、行者が一昼夜の断食を保ち、朝から夕刻まで大護摩を修します。八千枚の護摩木を一枚ずつ智火へ投じ、願いの成就を祈ります。参座される皆さまは、いつもどおり食事をとってお参りください。

平等寺本堂で焼八千枚供を修する行者
平等寺本堂での焼八千枚供。開催案内に掲載している法会記録より。

修した功徳を回向する

この修行で得た功徳を、願主の皆さま、そして一切の衆生(しゅじょう・生きとし生けるもの)のために回向します。修めた功徳を自分にとどめず、あらゆる命の安らぎへと振り向けていきます。

平等寺の焼八千枚供 開催案内

願いの成就を祈る

行を修めた後の願いの成就

日本語訳
初めの行を修め終えれば、心に願い求めることは、ことごとく成就する。言葉を発すればすべて意のままとなり、招き寄せるものはすぐに至る。
原文
已成初行滿,心所願求者,皆悉得成就,發言咸隨意,所攝召即至。
解説
『立印軌』は、菜食と念誦、断食、八千枚の護摩という初めの行を修め終えた行者について、こう説きます。十万遍の念誦と八千枚の供養に続く一節で、行を成し遂げた行者の悉地(しっじ・修行の成就)を説いた教えです。平等寺では、行者がこの行を修し、その功徳を願主の皆さまへ回向することで、お預かりした願いを祈ります。
出典
『立印軌』。『大正新脩大蔵経』第21巻、No.1199、5頁上段18–20行(CBETA)

平等寺は、この教えをよりどころとして、皆さまの願いをお預かりします。お申込みいただいた祈願を日々の護摩で読み上げ、不動明王の御前で祈念いたします。

大切な方の無事を願うとき、ご自身の苦しみを仏に申し上げたいとき、その願いをお寄せください。

祈願を申し込む

現地と配信でのお参り

平等寺の焼八千枚供は、現地のほか、ライブ配信を通じてお参りいただけます。初めての方も、遠方の方も、どうぞご参座いただけます。開催日程、祈願のお申込み、御札の郵送、当日の参座方法は、開催案内にまとめています。

焼八千枚供の日程・祈願申込み

平等寺のライブ配信

用語の手引き

本文に出てきた言葉を、短くまとめました。

護摩ごま
炉に火を燈し、護摩木や供物を炎にささげて仏を供養する密教の修法。サンスクリット語のホーマ(homa)の音写。
護摩木ごまき
護摩で炎に投じる木の札。古い修法書では乳木にゅうぼくとも呼ぶ。『立印軌』は苦練木(センダン)を定める。
智火ちか
如来の智慧をあらわす火。護摩壇に燈す火を、迷いを焼き尽くす仏の智慧のはたらきとして観ずる。
護摩壇ごまだん
護摩を修するために炉を据えた壇。行者はその前に座して修法を勤める。
行者ぎょうじゃ
修法を勤める僧侶。焼八千枚供では、前行から結願までを一人の行者が勤める。
本尊ほんぞん
その修法の中心にまつる仏。焼八千枚供の本尊は不動明王。
真言しんごん
仏の真実のことば。サンスクリット語の句を、意味に訳さず音のままとなえる。
念誦ねんじゅ
真言を心に念じながら、数を重ねてとなえる行。
座ざ
護摩を一回修することを一座と数える。平等寺の焼八千枚供は21日間で63座。
前行ぜんぎょう
結願に先立って重ねる修行。焼八千枚供では、毎日の護摩と念誦がこれにあたる。
開白かいびゃくと結願けちがん
開白は修行を始める初日、結願は願いを結ぶ最後の日。
参座さんざ
法会に集って共に祈ること。現地でもライブ配信でも参座できる。
祈願きがん
願いごとを申し込み、護摩で読み上げて祈ってもらうこと。平等寺では63座すべてで読み上げる。
回向えこう
修行で得た功徳を自分のものにとどめず、願主やすべての生きものへ振り向けること。
儀軌ぎき
修法の手順、供物、真言などを定めた文献。経典とあわせて経軌きょうきともいう。
口伝くでん
師から弟子へ口づてに伝えられた教え。書き留めたものを口決くけつともいう。
八識はっしき
心のはたらきを八つに分けて見る唯識の教え。五感の前五識、意識、末那識、阿頼耶識。
五智ごち
仏の智慧を五つのはたらきに分けたもの。法界体性智、大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智。唯識の四智に法界体性智を加える。
三昧さんまい
心を一つに定めた深い集中の境地。火生三昧は、身から智火を放つ不動明王の三昧。
種字しゅじ
仏や仏のはたらきを、梵字の一字であらわしたもの。「覽らん」は火の種字、カーンは不動明王の種字。
娑婆世界しゃばせかい
私たちが生きるこの世界。苦しみを耐え忍ぶ世界の意。

よくある質問

「しょうはっせんまいく」と読みます。「焼八千枚護摩供」「八千枚護摩供」とも呼ばれます。

焼八千枚供は護摩の修法の一つです。不動明王を本尊として護摩と念誦を重ね、結願の日に八千枚の護摩木を智火へ投じます。

はい。結願の日に、行者が朝から夕刻まで、千枚ずつ八度に分けて投じます。その前に、平等寺では21日間の前行を修します。

八千枚という数は『立印軌』に定められています。その意味として、八識の煩悩を断ち五智を証するという解釈(『秘鈔口決』)と、釈尊が娑婆世界に八千度現れることを表す数とする解釈(『厚造紙』)が伝わります。

本尊は不動明王です。釈尊がこの世界に八千度往来するという伝承は、八千枚の数に込められた意味の一つとして、『厚造紙』に引かれています。

三宝院流の口伝は、八千枚の前行として護摩を三七日、つまり二十一日間修すると定めています。平等寺の21日間は、この前行にあたります。日数や細かな作法は、寺院によって異なります。

参座される方は、いつもどおり食事をとってお参りください。一昼夜の断食をするのは、修法を勤める行者です。

63座すべての護摩で読み上げ、結願の座では八千枚の護摩木を投じて祈願します。お申込みの方法や締切は、開催案内をご確認ください。

不動明王を本尊とする護摩ですので、厄除けや災難除け、病気平癒、家内安全など、障りを離れて願いを成就へ向かわせる祈りをお預かりします。願いごとは一つに限りません。申込みの種類や冥加料は、開催案内に載せています。

結願の大護摩は平等寺の本堂で修します。当日の参座の方法や時刻は、開催案内でご案内しています。

ライブ配信を通じて参座いただけます。祈願のお申込みや御札の郵送については、開催案内をご確認ください。

参考文献

出典と参考資料

八千枚供の儀軌と日本の修法書を中心に、八識・智慧の教え、研究論文、寺院の実修記録を挙げます。漢訳儀軌には枚数の異なる作法も含みます。引用の現代語訳と要旨は本記事によります。

漢訳儀軌

不空奉詔訳『金剛手光明灌頂經最勝立印聖無動尊大威怒王念誦儀軌法品(立印軌)』。大正21・No.1199、5a12–24。菜食、十万遍、一昼夜断食、八千枚を連続して規定する中心儀軌。本文
不空奉詔訳『聖賀野紇哩縛大威怒王立成大神驗供養念誦儀軌法品』。大正20・No.1072A、167b05–08。馬頭明王の儀軌。菜食、十万遍、断食、苦練木、八千枚という立印軌と同じ形の規定。本文
不空奉詔訳『底哩三昧耶不動尊威怒王使者念誦法』。大正21・No.1200、11a04–08。十万遍と一昼夜の供養、苦練一千八枚。立印軌との異同を日本の注釈書が論じる。本文
不空奉詔訳『底哩三昧耶不動尊聖者念誦祕密法』。巻下「無動金剛事業求願品第七」、大正21・No.1201、21b04–16。菜食、一万遍、苦練木一千八遍の規定。数の異同を比較する直接資料。本文
金剛智奉詔訳『不動使者陀羅尼祕密法』。大正21・No.1202、23a07–18。四種精進行、一洛叉ないし三洛叉、一昼夜断食、一千八枝。日本の八千枚注釈が引用する。本文

日本の修法伝承

元海『厚造紙』。大正78・No.2483、278a21–b05。乳木の準備・千枚単位の作法と、八千枚を釈迦の八千度の往来を表す数とする口伝。本文
実運『諸尊要抄』。第九、大正78・No.2484、311a18–b16。八千枚乳木の作法、本尊との一体、火生三昧と智火。本文
勝賢『祕鈔』。巻第十三、大正78・No.2489、551b19–c14。「燒八千枚作法」。立印軌を本説とし、高野の師伝、八千度説、秘釈の存在を記す。本文
成賢『薄雙紙』。二重第七、大正78・No.2495、676a15–b20。「燒八千枚作法」「八千枚法則」、千枚ずつ八度、立印軌引用、娑婆八千度説。本文
頼瑜『薄草子口決』。第十三、大正79・No.2535、255c04–256a18。立印軌と他儀軌の引用、八千枚の表示、釈迦不動への帰属、苦練木=アフチ。本文
頼瑜『祕抄問答』。第十一本、大正79・No.2536、472c08–27。八千枚事、釈迦往来説、乳木を一枚ずつ供える別法、苦練木=アフチ。本文
守覚『御記』。大正78・No.2493、612b02–07。生涯で三度・六度八千枚を勤める教示、護摩と八千枚の呼称に関する注意。本文
深賢『實歸鈔』。大正78・No.2497、711c20–23。「八千枚燒事」。修する時刻と火焔輪止印の意味を記録する。本文
興然『四卷』。第一785b03–07/第三805a02–13、大正78・No.2500。第三は八千枚作法と前行十万遍。第一には保元2年(1157)の勧修寺での八千枚結願記録がある。本文
動潮ほか『三寶院流洞泉相承口訣』。真言宗全書33巻261頁。「燒八千枚作法」。前行三七日(随食・斎食・十穀断ち。十穀断ちは五穀と塩を断つこと)、終わりの七日で十万遍、当日一昼夜断食、千枚ずつ八度、結願の日中に修する今時の作法、立印儀軌を本拠とする旨。
教舜『祕鈔口决』。真言宗全書28巻332頁。「八千枚事」。東寺では不動八千枚と虚空蔵求聞持法を伝え習うこと、教舜自身と仁和寺定遍が十度修したこと、乳木を取る甲子の日。
教舜『祕鈔口决』。真言宗全書28巻334頁。覚洞院口説として八識の煩悩を断ち五智を証する解釈。千は多の意味。書誌(本文は登録利用者向け)
興然『五十卷鈔』第三十二。真言宗全書30巻205頁。小野の口伝として、八千枝を釈迦の娑婆八千度往来を表す数として説明する。『梵網経』の八千返を護摩の八千枚へ結ぶ経路。
性寂口・勝慧記『祕密儀軌隨聞記』。第七、真言宗全書1巻153頁。八千の表示を八葉蓮花、八識、四智四行、中台によって説明する。釈迦往来説との観点の違いも記す。
隆瑜『祕藏記拾要記』。巻八、真言宗全書9巻447頁。八識と仏の智慧について論じる中で、『八千枚秘釈』を引用する注釈書。

台密・比較資料

長宴『四十帖決』。巻第七、大正75・No.2408、885a17–27。十万遍の先行と八千枚を三時へ分ける師説。儀軌間の対応を記す。台密の伝承資料。本文
静然『行林』。第五十一、大正76・No.2409、357a06–c02。立印軌・底哩・使者法の八千枚/一千八枚の異同と、師伝の実施法をまとめる。台密の伝承資料。本文
光宗『溪嵐拾葉集』。大正76・No.2410、718b07–719a19。八千枚の数・所表・秘決を独立して論じ、八識惑障と諸仏理智、釈迦八千返、各儀軌の枚数を比較。「覺述」の八千数秘決を載せる。本文

教義・解釈の背景

鳩摩羅什訳と伝える『梵網經盧舍那佛説菩薩心地戒品第十』。巻下、大正24・No.1484、1003c16–19。「吾今來此世界八千返」。日本の修法書が釈迦往来八千度説の根拠に引く。護摩枚数を直接規定する経ではない。本文
空海『即身成佛義』。大正77・No.2428、382a06–11、384a05–18。因位の識と果位の智、各具五智の説明。八識・五智の教義的背景で、八千枚の直接解釈ではない。本文
護法等造・玄奘訳『成唯識論』。巻1・巻4・巻5、大正31・No.1585、7b26–8a02、22a19–b10、26a04–b10。八識の分類、阿頼耶識の種子、末那の我執、前六識の対象認識。本文

研究論文・写本の所在

松崎恵水「興教大師覚鑁の三摩地観」『日本佛敎學會年報』41、1976年、353–365頁。特に355頁に覚鑁『八千枚秘釈』と八識の解釈、石山寺蔵『不動八千枚作法』への言及。論文
金本拓士「焼八千枚護摩供覚え書き」『現代密教』32、2023年、139–154頁。論文情報(INBUDS)
『八千枚日記』行阿写、天保6年(1835)、京都大学附属図書館・島田文庫、請求記号「島田/12/1」。八千枚の異説・支度・次第・開結作法を合綴する写本。所蔵資料

寺院の実修記録・補足資料

高尾山薬王院「高尾山薬王院の成り立ち ―其の壱―」。八千枚護摩供の相承と前行、実修の伝承。公式解説
岡澤慶澄「焼八千枚護摩供」連載、長野・金峯山長谷寺、2023年12月。その1 八千度の生死・その4 いよいよ八千枚。住職自身による準備・前行・結願の記録。
三重県林業研究所「センダン」。学名と「あふち」の別名を確認する植物資料。解説
平等寺「焼八千枚供 本尊不動明王」。二十一日間の実修、祈願、参座方法と法会写真。開催案内
平等寺「不動明王とは」。本誓とお姿、智火の解説。記事

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