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読みもの

露地の偈

露地の偈は、お釈迦さまに命じられて揵椎けんちを撃った阿難あなんがとなえた八句の偈です。後に「聞鐘偈」とも呼ばれました。偈の後半は、この響きを聞いた人に「みなここへ集まりなさい」と呼びかけます。

 

  1. 露地の偈の八句
  2. 偈の前半と後半
  3. 偈がとなえられた七月十五日
  4. 八句の意味を一句ずつ
  5. 聞鐘偈の名と、いまの作法
  6. 露地の二つの意味
  7. 鐘の音を聞いたら手を合わせる
  8. よくあるご質問
  9. 参考にした典拠
讃題

露地の偈の八句

阿難がとなえた八句を、『増壹阿含経』の本文のまま掲げます。声に出して読んでみてください。

露地の偈(全八句)

日本語訳
魔の力ある怨敵を降伏し、煩悩の結びを余すことなく除くため、露地で揵椎けんち(僧を集める鳴り物)を撃つ。比丘たちは、聞いたなら集まりなさい。法を聞こうと願う人、生死の海を渡ろうとする人は、この妙なる響きを聞いたなら、みなここへ集まりなさい。
原文
降伏魔力怨、除結無有餘、露地擊揵椎、比丘聞當集。諸欲聞法人、度流生死海、聞此妙響音、盡當運集此。
解説
読みは「ごうぶく まりきおん/じょけつ むうよ/ろじ げきけんち/びく もんとうじゅう/しょよく もんぽうにん/どる しょうじかい/もんし みょうこうおん/じんとう うんじゅうし」。
出典
『増壹阿含経』巻第二十四「善聚品」(大正蔵 No.125)
法説

偈の前半と後半

この偈が伝えるのは、響きを聞いたなら集まりなさい、という呼びかけです。

八句は四句ずつ二つに分けられます。前半の初めの三句は、鐘を打つ側のことです。魔を降し、煩悩を除くために、露地で揵椎を撃ちます。第四句で「比丘たちは、聞いたなら集まりなさい」と僧に呼びかけます。後半の四句は、呼びかけを僧の外へ広げ、「法を聞きたい人、生死の海を渡りたい人は、この妙なる響きを聞いたなら、みな、ここへ」と、聞く人を招きます。

鐘を打つのはお寺の務めですが、偈が呼びかけている相手は、その音を聞く人です。

因縁

偈がとなえられた七月十五日

今から二千年あまり前の七月十五日、お釈迦さまは屋外の開けた場所、露地に座を設けられました。この日は、夏の修行である安居あんごを終える「受歳じゅさい」の日です。経の中でお釈迦さまは、受歳を、僧が二人ずつ向き合い、自分の身と口と心の過ちを申し出て、許しを願うこと、と説かれています。

お釈迦さまは、お弟子の阿難あなんを呼び、こう告げられました。「露地で、すぐに揵椎を撃ちなさい」。揵椎とは、僧侶を集めるための鳴り物です。阿難は講堂へおもむき、揵椎を手に取りました。そして、こう宣言しました。「私は今、この如来の信の鼓を撃つ。如来の弟子である者は、みな集まりなさい」。

この宣言に続いて、八句の偈がとなえられました。

お釈迦さまのお言葉(揵椎を撃て)

日本語訳
あなたは今、露地で、すみやかに揵椎を撃ちなさい。なぜなら今日、七月十五日は、受歳の日だからです。
原文
汝今於露地速擊揵椎。所以然者、今七月十五日是受歲之日。
出典
『増壹阿含経』善聚品(大正蔵 No.125)

阿難のお言葉(如来信鼓を撃つ)

日本語訳
私は今、この如来の信の鼓を撃ちます。如来の弟子である者は、みなことごとく集まりなさい。
原文
我今擊此如來信鼓、諸有如來弟子眾者、盡當普集。
出典
『増壹阿含経』善聚品(大正蔵 No.125)
句ごとに

八句の意味を一句ずつ

どの句も、漢字五字の短い言葉です。

降伏魔力怨

ごうぶく・まりきおん

魔の力ある怨を降す。

除結無有餘

じょけつ・むうよ

煩悩の結びを、余すことなく除く。

露地擊揵椎

ろじ・げきけんち

開けた地で、揵椎を撃つ。屋根がないので、音が四方へ広がります。

比丘聞當集

びく・もんとうじゅう

僧たちよ、聞いたなら集まりなさい。呼びかける相手が、ここで初めて示されます。

諸欲聞法人

しょよく・もんぽうにん

法を聞こうと願う、すべての人へ。ここからは、僧に限らず呼びかけます。

度流生死海

どる・しょうじかい

生死の海の流れを渡ろうとする人へ。生死の海とは、迷いの世界のたとえです。

聞此妙響音

もんし・みょうこうおん

この妙なる響きを聞いたなら。

盡當運集此

じんとう・うんじゅうし

みな、ここへ集まりなさい。八句は、この招きの言葉で終わります。

いま

聞鐘偈の名と、いまの作法

この偈は、後に「聞鐘偈もんしょうげ」とも呼ばれるようになりました。唐の道宣どうせん律師は、僧を集めるときにとなえる偈として八句を掲げました。宋の元照がんじょう律師は「これは堂の外で音を聞く人々が、そろって唱えるものです。打つ人の偈ではありません」と記しています。

誰がとなえるかは、時代と場所で変わってきました。それでも、偈が呼びかける相手は、どの時代も音を聞く人です。

いまの作法はお寺によって異なりますので、お参りの際はその場の指示に従ってください。

露地

露地の二つの意味

「露地」とは、屋根のない開けた地のことです。音が遮られず、まっすぐに響きます。お釈迦さまが座を設けられたのも、そういう場所でした。

「露地」には、もう一つの意味があります。『法華経』の「譬喩品」に、火に包まれた家から子どもたちが逃れ、開けた地に座って心が安らぐ、という喩えがあります。経は、この安全な場所を露地と呼んでいます。燃える家は迷いの世界を、露地は苦しみの家を出た安らぎの地をあらわします。

二つの露地は、どちらも遮るもののない場所です。鐘の音はそこでまっすぐに届き、火宅を逃れた子どもたちはそこで障りなく安らぎます。

法華経の言葉(火宅の外の露地)

日本語訳
みな四つ辻の道のなか、露地に坐して、もはや障りなく、その心は安らかであった。
原文
皆於四衢道中、露地而坐、無復障礙、其心泰然。
出典
『妙法蓮華経』譬喩品(鳩摩羅什訳、大正蔵 No.262)
結勧

鐘の音を聞いたら手を合わせる

鐘の音が聞こえたら、ひととき手を合わせてみてください。

偈が呼びかけているのは、法を聞こうと願う人、生死の海を渡ろうとする人です。僧に限りません。

手を合わせるときに、決まった言葉はありません。合掌して、「私はいま、呼ばれている」と心を向けてみてください。

次に鐘の音を聞いたら、その一瞬を大切にしてください。

よくあるご質問

参考文献

参考にした典拠

本記事は、真言宗 平等寺が、次の原典にもとづいて記しました。漢訳経・律は大正新脩大藏經(CBETA)の本文から確認しています。「No.」は大正新脩大藏經の経・論番号です。

偈の出典

『増壹阿含経』巻第二十四「善聚品第三十二」(東晋・瞿曇僧伽提婆訳、大正蔵 No.125)。露地の偈の出典。七月十五日の受歳(自恣)の日に、阿難が揵椎を撃って比丘を集める場面に八句の偈が説かれます。底本は第二句を「除結無有餘」とします。

聞鐘偈の典拠

道宣『四分律刪繁補闕行事鈔』(大正蔵 No.1804、T40, 35b24–35c4)。『増壹阿含経』の全八句を「聞鐘偈」として掲げます(第二句は「除結盡無餘」)。
元照『四分律行事鈔資持記』(大正蔵 No.1805、T40, 186a・234b)。信鼓を、事相では衆へ時を告げ、法義では心を一つに帰せしめるものと釈します。また聞鐘偈は堂外の大衆が同声に唱えるもので、打つ人の偈ではないと論じます。

露地の典拠

『妙法蓮華経』譬喩品第三(鳩摩羅什訳、大正蔵 No.262)。火宅(燃える家=迷いの世界)を出た子らが「四衢道中、露地而坐」する喩え。露地を、苦しみの家を出た安らぎの地の象徴として伝えます。

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