ここ平等寺のご本尊さまは、「薬師如来」、正式には薬師瑠璃光王如来と申します。
薬師如来さまは、はるか東方の清浄な仏国土「浄瑠璃世界」の教主です。私たちのあらゆる苦しみを癒し、願いを叶えるため、かつて十二の広大な誓願を立てられました。
その誓いは『薬師瑠璃光如来本願功德經』に詳しく説かれ、今も私たちに希望の光を投げかけています。日本人が古来より「日が昇る東」を再生や復活の象徴として大切にしてきたように、薬師如来さまは、私たちの人生に新たな光をもたらしてくださるのです。
薬師如来さまは、菩薩として修行されていた遠い昔、私たち生きとし生けるものすべてを救うため、十二の大きな誓いを立てられました。
その一つ一つが、私たちの具体的な悩みに応え、幸せへと導いてくださる力強い約束です。
これら十二の誓いは、薬師如来さまが私たち一人ひとりの苦しみを見過ごさず、必ず救い上げてくださるという、揺るぎない決意の表れです。
薬師如来さま最大の特長は「現世利益」。今を生きる私たちの苦しみを取り除き、願いを叶えるお力です。
お経にも令諸有情,所求皆得
(生きとし生けるものの求める所を皆な得せしめん) と誓われています。
病気回復や健康長寿はもちろん、平等寺の薬師如来さまは特に、足腰の痛み、眼の病気、現代社会特有の心の悩みにも大きなご利益を授けてくださるといわれます。
近年、ガン封じのご祈願をされる方が全国から後を絶たないのも、薬師如来さまの広大なお力の証と言えるでしょう。
四国八十八ヶ所霊場の中で、平等寺の薬師如来さまは最も東にお祀りされています。
「昇る太陽」が再生と復活、力強いエネルギーを象徴するように、この東の薬師如来さまは、四国霊場でも特に強力な「現世利益随一のお薬師さま」として、多くの人々に希望を与え続けてきました。
本堂に奉納された三台の箱車(昔の車いす)は、薬師如来さまのお導きで足腰の病から奇跡的に回復された方々の、感謝の祈りの結晶です。
約1200年前の弘仁5年(814年)、この地を訪れた弘法大師空海さまが修行中、心に金色の梵字が浮かび、薬壷の形を経て薬師如来さまのお姿が現れるという体験をされたと伝えられています。
その尊いお姿に深く感動された弘法大師さまは、一彫りごとに三度礼拝する「一刀三礼」という丁寧な方法で、ご自身の手で薬師如来像を木に刻まれました。
それが、今お参りされる平等寺のご本尊「薬師如来坐像」なのです。
その後、室町時代に専門の仏師の手で、寄木造堅地漆箔仕上げという伝統技法で大切に修繕され、現在の輝くお姿となりました。
驚くべきことに、お像が左手にお持ちの「薬壷」だけは、弘法大師さまが作られた当時のものと伝えられています。
どの角度から拝見しても、私たちを包み込むような大変お優しい表情をされており、まさに「ほとけ」という言葉がぴったりの、温かくも威厳に満ちたお姿です。
平等寺の境内、本堂へ続く石段は合計71段。山門前の13段、山門をくぐって5段、そして本堂へと続く53段です。
境内にはいつも、美しい五色の綱がたなびいています。この綱は、ご本尊薬師如来さまの御手から、はるばる山門まで繋がっています。
これは、石段を登ることが難しい方でも、この綱に触れ、心を込めて握ることで、薬師如来さまと確かにご縁を結んでいただけるようにという、お寺の優しい配慮の表れです。
どうぞ、この綱に触れて、薬師如来さまの温もりを感じてください。
薬師如来さまのすぐそばには、頼もしい二人の脇侍(補佐役の仏さま)がおられます。
『薬師瑠璃光如来本願功德經』にも名が記されているように、薬師如来さまの浄土におられる無数の菩薩がたの代表であり、薬師如来さまの教えの宝庫をしっかりと守っておられるのが、「日光遍照菩薩」さまと「月光遍照菩薩」さまです。
昼間は日光菩薩さまが、夜間は月光菩薩さまが、それぞれ交代で薬師如来さまの救済活動を力強くサポートし、私たちに癒やしと安心を届けてくださるといわれています。
さらに、薬師如来さまの周りには「十二神将」と呼ばれる、力強いガードマンたちが控えています。
十二神将は十二支に対応し、2時間ごとに交代で私たち衆生を守護します。各神将のもとには7,000もの眷属(部下)がおり、合計84,000もの大軍団が、薬師如来さまとその教えを信じる人々を昼夜分かたずお守りし、仏さまの働きを助けていると伝えられています。
『薬師瑠璃光如来本願功德經』の中で、十二大将たちは、お釈迦さまの前で薬師如来の名を敬い供養する者を、私たちは眷属と共に守護し、一切の苦難から解き放ち、全ての願いを満足させます
と力強く誓っています。
『薬師瑠璃光如来本願功德經』には、薬師如来さまのお名前を聞くこと(聞名)、心に憶い念じること(憶念)、心から帰依すること(帰依)によって、信じられないほどの功徳が得られると繰り返し説かれています。
例えば、欲深く物惜しみする心が強いために餓鬼や動物の世界に生まれ変わった者でも、かつて人間だった時に一度でも薬師如来さまの名を聞いたことがあれば、その記憶によって再び人間として生まれ変わり、正しい道へ進むことができます。
戒律を破ったり、正しい見方ができなくなったりして、地獄・餓鬼・畜生の三悪趣に堕ちるべき者でも、薬師如来さまの名を聞くことで、悪しき行いを捨て善行に励むようになり、悪趣に堕ちることがなくなるといいます。
たとえ悪趣に堕ちたとしても、薬師如来さまの本願の力によって、再び人間に生まれ変わり、正しい道を進むことができるのです。
さらに、いさかいを好み、互いに害し合うような人々も、薬師如来さまの名を聞けば、皆が慈しみの心を起こし、互いに利益を与え合うようになると説かれています。
病に苦しむ人々が、薬師如来さまの名を心から称え、礼拝し供養すれば、その苦しみは除かれ、生まれてくる子供も健康で賢く育つともあります。
このように、薬師如来さまのお名前には、私たちの想像をはるかに超えるほどの、偉大な救済の力が込められているのです。
平等寺の薬師如来さまは、弘法大師空海さまとの深いご縁と、お経に説かれる揺るぎない誓願によって、1200年もの長きにわたり、絶えることなく私たち衆生を守り、癒やし続けてくださっている、本当に頼もしい仏さまです。
もしあなたが今、足腰の痛みや眼の不調、心の悩み、さまざまな病気、あるいは人生の困難に直面しているのであれば、ぜひ一度、平等寺にお参りください。
そして、薬師如来さまの深く温かい慈悲の光に、心ゆくまでふれてみてください。
あなたの心と身体の健康を願うその真摯な祈りは、お経に誓われた通り、きっと薬師如来さまに届き、力強くお導きいただけることでしょう。
合掌