A van for a parent and child
四国八十八ヶ所の聖なる道を歩むとき、あなたは「箱車(はこぐるま)」と呼ばれる、心を打つ光景に出会うことでしょう。22番平等寺に3台、57番栄福寺、44番大宝寺、88番大窪寺にそれぞれ1台、合計6台が静かに眠っています。時を超えて語りかけるような、その佇まい。
箱車とは、人が身を委ねることのできる大きな木箱に車輪を取り付けたもの。歩行が叶わなくなった方を乗せ、誰かが心を込めて引っ張ったり押したりして前へと進む、現代の車イスにも似た古の道具です。その一つ一つに、人知れず流された涙と祈りの物語が刻まれています。
このページでは、平等寺の本堂に奉納された高知県出身の筒井林之助(つついりんのすけ)氏が使っていた箱車が紡ぐ、魂を揺さぶる親子の物語をご紹介します。
筒井林之助と父・福次
命を賭けた親子の祈りの道

平等寺の箱車
平等寺に静かに佇む箱車は、一見すると古びた木の小屋のようにも見えます。しかしその朽ちかけた木肌の一つ一つには、大正12年(1923)に土佐地蔵寺村(現在の高知県土佐郡土佐町地蔵寺)出身の鍛冶職人・筒井林之助(つつい りんのすけ)氏とその父・福次(ふくじ)氏の限りない愛と祈りが染み込んでいます。かつてはこの箱に三つの車輪が付いており、人力車のように前から引っ張って移動できる「箱車」として、親子の命をつなぐ希望の器となっていました。
病に倒れる林之助
寺に残る由緒書きが物語るのは、大正10年(1921)、人生の花を咲かせようとしていた31歳の林之助氏が突如として脊髄の病に襲われ、徐々に下半身の感覚を失っていった悲痛な日々。父・福次氏(当時54歳)は息子を救うため、あらゆる医師を訪ね、考えられるすべての治療法に縋りましたが、冷酷にも病魔は息子の体を蝕み続け、2年後には上半身にまで麻痺が広がってしまいます。ついには松葉杖さえも握ることができなくなった林之助氏は、日に日に細る希望の灯火を必死に守りながら、暗闇の中で苦しみ続けていました。
もはやお大師さまに
おすがりするしかない
絶望の淵に立たされた父・福次氏の胸に、ある日突然、閃きのように灯った一筋の光。「もはやお大師さまにおすがりするしかない」。医学では救えない息子の命を、お大師さまの導きに委ねる決意を固めた福次氏は、鍛冶職人としての技術と父親としての愛情のすべてを注ぎ込み、林之助氏が横たわれる大きな木箱に車輪を取り付けた「箱車」を完成させました。そして第35番札所・清瀧寺(きよたきじ)を札始めに、命がけの四国遍路の旅へと親子は出発したのです。

(寺に残る古い写真より)
四国霊場を巡る旅
大正12年(1923)10月、親子は四国の険しい山々や激流の川を、時に雨風にさらされながら、一歩ずつ越えていきました。箱車を引く父の手には血豆ができ、肩には深い擦り傷が刻まれても、愛する息子のために福次氏は決して足を止めることはありませんでした。愛媛・香川・徳島と順打ちしながら、ついに彼らは第二十二番札所・平等寺にたどり着いたのです。長い旅路の疲労か、それとも神聖な場所への直感か、親子は平等寺に4週間もの間滞在することになります。
この滞在中、林之助氏は寺に湧く「弘法の霊水」を一筋の希望のように毎日飲み続け、当時の住職である谷口津梁(たにぐち しんりょう)師から心を込めた加持祈祷を受けました。父と息子の祈りは、寺の静寂の中で日々深まっていったのです。
奇跡の回復
やがて訪れたのは、医学では説明のつかない奇跡の瞬間。林之助氏の体に少しずつ感覚が戻り始め、ついには金剛杖を一本つけば自らの足で立ち上がれるほどに回復したのです。箱の中から初めて見上げた空の青さに、林之助氏の目には涙が溢れました。もはや箱車に身を委ねる必要がなくなった彼は、深い感謝の気持ちを込めて、自分の命を救った箱車を平等寺の本尊・薬師如来に奉納。そして自らの足で大地を踏みしめながら残りの札所を巡拝し、再び歩けるようになった喜びを胸に、故郷の土佐へと帰っていったのです。
50代半ばの父・福次氏にとって、三つの車輪が付いた重い木箱を押し引きしながら、険しい山道や海岸沿いを歩み続けることは、想像を絶する苦労だったことでしょう。箱車の前面の格子ガラス越しに、父と息子は同じ景色を見つめ、言葉にならない絆で結ばれながら、祈りと希望の旅を続けたのです。その道のりは、ただの巡礼ではなく、親子の魂の浄化と再生の物語でした。

住職・谷口津梁師
永遠に語り継がれる親子の絆
これが、平等寺に静かに息づく箱車の真実の物語です。近年、一部のガイドブックでは「歩行困難な人が家族から見放され、この箱車に入れられて隣の村に送られた」という誤った説が記されることもありますが、その実態は全く異なります。この箱車は、絶望の闇から光へと至る旅路を共に歩んだ父と息子の、言葉にできないほど深い愛の証なのです。
その他の箱車
四国八十八ヶ所の聖なる道には、第五十七番札所・栄福寺や第四十四番札所・大宝寺、第八十八番札所・大窪寺にも、それぞれの物語を秘めた箱車が奉納されています。一つ一つが語る人々の祈りと奇跡の軌跡について、詳しくは以下のサイトなどをご参照ください。
時を経て朽ちかけたこの木箱には、四国遍路の功徳を深く信じ、絶望の淵から救われた親子の魂の足跡が刻まれています。平等寺を訪れた際には、この箱車の前に立ち、百年前の親子の祈りと涙に思いを馳せてみてください。あなたの心にも、きっと何かが響くことでしょう。
平等寺の足腰健全祈願
現代に受け継がれる霊験
筒井林之助氏の奇跡的な回復の物語が示すように、平等寺は古来より「足腰健全」の霊験あらたかな寺院として篤く信仰されてきました。箱車が伝える奇跡は、単なる過去の逸話ではなく、今なお平等寺に脈々と息づく神聖な力の象徴なのです。
足腰健全守り
現在、平等寺では特別に祈祷を施した「足腰健全守」を授与しております。このお守りは草鞋の形をした手作りのもので、寺院主催の「しめ縄作りプロジェクト」において、田植えから稲刈りまですべて手作業で育てたワラを使用しています。霊水で清めながら寺院職員一同が真心を込めて制作し、住職が厳かに祈祷を施しました。

このお守りには、かつて筒井林之助氏の回復をもたらした同じ祈りの力が宿っています。ご家族の健康や自らの足腰の健全を願う多くの方々が、このお守りを求めて全国各地から参拝に訪れています。
健やかな足腰は
人生の旅路を支える力
また、平等寺では現代に合わせた取り組みとして、オンラインでの足腰健全祈願も受け付けております。遠方にお住まいの方や、ご高齢の方でも、実際に寺を訪れることなく、ご自宅からでも祈願をお申し込みいただけます。
祈願は毎朝の「朝勤行・足腰健全祈願」にて、住職がお一人お一人のお名前を読み上げながら、丁寧に執り行います。お申し込み後は、特別に加持祈祷された足腰健全守をお送りいたします。
足腰健全祈願は、以下の方法でお申し込みいただけます
- 平等寺オンライン
- お電話での申し込み
0884-36-3522
受付時間: 8:00〜17:00 - 平等寺での直接申し込み
志納金: 2,000円
(足腰健全守、送料込み)
健やかな足腰で人生の旅路を歩み続けるために、筒井林之助氏と同じように、大師さまのご加護を受けてみませんか?あなたの「歩む力」を平等寺は全力で支えます。
合掌